2011年11月23日水曜日

Mozart: Don Giovanni (二期会創立60周年記念公演 ゲネプロ,日生劇場, Nov. 22. 2011)

まさか一週間に二回もドン・ジョヴァンニを見るとは思わなかった。
そういうこともあるんですね。

昨日は二期会創立60周年記念公演「ドン・ジョヴァンニ」のゲネプロを見学してきた。
キャストは後半組。(詳細は最下部に)
昨日書いたのですが、内容がネタばれまくりなので、初日がはねた今日まで待って公開します。

演出はカロリーネ・グルーバー、ライン・ドイツ・オペラとの共同制作ということで、ちょっとユーロトラッシュかも、と覚悟してきたつもりが、そんな覚悟が粉々に打ち砕かれる演出でした。いやぁ、私、ドイツのレジーなめてました。

胃が痛くて仕方ないです。まさか肉体的にくるとは。
前半はまだ大丈夫だっただけに、後半のショックがでかかったんだと思います。
しかしすごく勉強にはなったし、書きたいことはいっぱいあるのでさっさといってみよう。

オープニング、演出の都合で嵐と雷のSEから入ったけど、これはなくてもいいかも。というか、せっかくの序曲の入りの迫力が削がれた感があって、あまり好きでない演出でした。照明で嵐の描写しながらあの序曲流すだけで十分 、嵐のイメージになると思うんだけど。
なので、序曲の入りではちょっとずっこけた。SEと切れ目がなかったので、あ、いま入ったの?みたいになってしまった。そのせいか、序曲の前半、なんか遅い?もたもたしてる?と感じてやきもきしましたが、後半どんどんわたしの好きなスピードになっていったのでよかった。

しかしここでまさかの落とし穴 。レポレッロの声がうまく聞こえない。後半には調子出てきた部分もあったけど、今日のキャストの中で一番、歌がちょっとどうかな、と思ったのはレポレッロでした。

しかしドンナ・エルヴィーラの歌が超いい!(その後、女の人は3人とも超いいことが判明)

そしてジョヴァンニも、恐れていたよりずっといい!ジョバンニは声は高めに聞こえました。輝かしい系の声だと思う。ただ、ここぞという場面であんまり良くないときもあった(セレナーデがよくなかったのが痛かった。「お手をどうぞ」もそこまでよくなかったような気がするので、この辺が響きにくいのかも?)逆にレチタティーヴォはほとんど良かった。あと、シャンパンアリアをきっちり決めてくれたので、それだけで高得点です(シャンパンアリア、ちょっとゆっくりだったように感じました。ただ私が普段聞いてるのがペーター・マッテイのライブ音源で、めちゃめちゃ早くてきっちり決めてるやつなので、比べる私が良くないと思う)。

というわけで、これ以降、みんな声がよくて歌がうまいので楽しく聞けました。ツェルリーナも声がキンキンでなく、優しい響きだったから、いつもより全然腹が立たなかった(なぜかいつもツェルリーナというキャラに腹が立って仕方ないんですね。なにか個人的な恨みでもあるのだろうか)

マゼットもよかった。彼は出世魚系のマゼットですね。 背が高くて声がきれいでまだ若いから。早く出世して、よいレポレッロになってほしいものです。
(※出世魚系=「ドン・ジョバンニ」にはバスバリトンが歌える役が3つあり、その3つとはマゼット、レポレッロ、ジョバンニ。なので、若くて舞台映えのする、モーツァルトを歌えるバスバリトンが現れると、とりあえずマゼットから修行をはじめて、レポレッロを経由してドン・ジョヴァンニを目指す、というコースがよく取られます。これが出世魚コース。ルカ・ピサローニもこのタイプ。まだレポレッロですが。あとはアーウィン・シュロットとかもそう。逆にハイバリトンだと飛び級で直接ドン・ジョヴァンニ・コースしかない)

まあ、そんな感じで1幕終了。やや退廃的な空気を漂わせてはいますが、そういうのは別に平気なので、このくらいなら大丈夫だな、と思って油断してた私は2幕でぼっこぼこにされてしまうわけです。

もともと、かなり性的な表現をしっかりやる演出方針ではあった。1幕序盤のドンナ・アンナは完全に合意の上で性行為に及んでいるし(しかもそれをドン・オッターヴィオに「なにがあったか説明してください」と言われ歌うときに、後ろで再現用の役者が再現するという念の入れよう)。しかし、私がへこんだのは、単に過剰な性的表象だけではない(その程度ならせいぜい辟易する程度)。

ピンポイントで胃が痛くなったのはここ!
ジョヴァンニとレポレッロの入れ替わりシーン。
この入れ替わりのシーンがすごく好きで、たぶんドンジョヴァンニの中で好きなシーンベスト3に入るくらい好き(その次に好きなのが、美人がいる、と思って声かけたら、自分が捨てたドンナ・エルヴィーラだった、という通称「バカじゃないの」シーンです)なのですが、今回、なんとここで、入れ替わらない(涙)
まずは通常の演出ではどうするか、振り返りましょう。


(↓ちなみにこの演出だとジョヴァンニとレポレッロの体格差がありすぎて服を交換したあと、どっちも笑える姿になっているところもポイント)


ジョヴァンニが「ドンナ・エルヴィーラの女中を口説くから、ちょっとお前の上着かせ」といってレポレッロの上着を取り上げ、自分の上着を着せています。ちょうどそこへドンナ・エルヴィーラの声が聞こえ、チャンスとばかりに レポレッロに「おれのふりしろ」と指示して、エルヴィーラを口説く歌を歌います。レポレッロは歌に合わせて口パクで身振り(エア・ジョヴァンニ(笑))を披露。口説かれて、下に降りてきたエルヴィーラにレポレッロがジョバンニのフリをして近づいたところで本物のジョヴァンニが後ろからはやし立てて追い払い、女中にむかって(あの美しい)セレナーデを歌うのです。

で、今回の演出ではどうだったか。まず、そもそもドンナ・エルヴィーラがすごく近くにいる(通常のように上の階にいるわけじゃない)。服も着替えないまま、ジョヴァンニ本人が直接エルヴィーラに歌いかける。で、通常ならレポレッロへの指示であるレチタティーヴォを、レポレッロ・エルヴィーラ両方を目の前にして歌うんです。

そうするとどうなるか。
1、コメディとして超面白いこのシーンがまったくコメディじゃなくなる

服を着替えてエア・ジョヴァンニするだけですごく笑えるこのシーン、三重唱でレポレッロが「ああ、彼女またこれで騙されちゃうんだろうな」と歌ったところで大ウケ。とにかく笑える傑作シーンなのに、入れ替わらないとくすりとも笑えません。

2、ドンナ・エルヴィーラがすごく惨めなひとになる

全然入れ替わってないので、レポレッロとジョヴァンニを取り違えたわけでもなく、あくまでジョヴァンニの指示でレポレッロと一緒に出ていくので、なんだかねー。引くに引けなくなってしまった女の人の末路みたいで、見るに耐えられない感じなのです。エルヴィーラが涙ぐむ演技が入るし(この場面の醜悪さについて、わたしはいまもうまく書くことができない)


で、おえーってなってしまったのです。(ここで忍耐のゲージを振り切ってしまったらしい)

地獄落ちとそれ以降も工夫してたし、舞台装置も面白い発想ではあったけれど、なんかもうこの場面でいいや、と思ってしまいました。

(この場面の気持ち悪さについては、うまくかけるようになったら書きたいけれど、これをうまく整理できるようになる自信が今のところ全然ない)

なんでここまで嫌だったのかを、少し分析してみた。
例えば、ワーグナーのリングでなら、かなりえげつない話が進行しても私は全く抵抗はない。
(ちなみに、リングはそもそもえげつない話じゃないか、という指摘は全く正しい。)

「ドン・ジョヴァンニ」はドラマ・ジョコーゾ(dramma (giocoso) per musica(音楽のためのおどけたドラマ)と書いてあるくらいなので、コメディであることがこの作品の本性だと考える。


もちろん、この作品には人間のどうしようもなさ、救いのなさも書き込まれている。しかし同時に、それでも生きていく人間の強さや生き生きした暮らし、一般的な誠実さとは違っていてもキラキラと輝く美しい瞬間が丁寧に書き込まれている。

人間の醜悪さが作品に含まれているからといって、そればかりを強調してコメディ部分を捨象してしまうと、作品の楽しさが失われてしまうだけでなく、物語のリアルさをも薄めてしまうように感じます。

 
というようなことを感じました。
きょうはここまで。
今回の収穫のひとつは、私の中でのレジーの基準が少しはっきりしたことだな。
(まあ、それは文学の分析と同じなのだけど)
作品に全く含まれていないことをこじつけるのもレジーだが、
作品に含まれているある側面だけを取り出して、過剰に強調することで本来の文脈を失わせるような行為も、わたしはレジーと感じるのだと知りました。

レジー嫌い=保守的なオペラファン、と思われるとちょっと違うので、一応強調しておくと、
  • 現代オペラ大好きです。昨シーズンのNixon in China もすごく楽しかったし、今シーズンのSatyagrahaも楽しみにしてます。(というかサティアグラハはタイトルロールがリチャード・クロフトなんですよ!この人は本当に美声で、テノールなんか褒めたことない私が手放しで絶賛してたりして。ああもう今から楽しみ) 
  • 視覚的な派手さな演出や革新的な装置とか、めちゃくちゃ好きです。METが今、積極的に演劇の演出家にオペラ演出をさせてますが、ああいうのもどんどんやってほしい。基本的に派手好きで新しいもの好きなのです。
はあ。何か疲れたので、心が休まる動画from Don Giovanniを大量に貼っておきます。

 1、「お手をどうぞ」のデュエット。クリスマス番組かなにかでしょうね。はく息の白さ、コートの分厚さをみると超寒そう。でもいい歌。

(ちなみにこの女性の方、Lisa Nilsson さんというソウル歌手で、ヘッド・ボイスで歌えるとは思いもしなかった、という感想が寄せられているほど、声楽とは関係ない方なのだそうです。しかしあまりにうまくてびっくり。)


2、ドン・ジョヴァンニのセレナーデ





(別に2パターン貼る必要はなかったが、つい貼ってしまった。2つめのほうが音といい、質がいいのだけど、これを見てマッティの印象がオールバック眼鏡になってしまうと とても困るため)

ものはついでなのでもうこれも貼っちゃう。「フィガロの結婚」の宣伝でシアトルのケーブルテレビか何かのインタビューを受けるクヴィエーチェン(この映像は音は悪いです)。このインタビューを見るたびに、この人ほんといい人なんだなあ、と思う。最後になにか歌って、とお願いされて、じゃあドン・ジョヴァンニからシンプルな歌をひとつ、といってセレナーデを歌ってます。(3分40秒あたり)



おまけでシャンパンアリア。珍しいものを見つけたのではっておこう。

Mozart: Don Giovanni
(二期会創立60周年記念公演 ゲネプロ, 日生劇場, Nov. 22. 2011)

ドン・ジョヴァンニ         宮本益光
騎士長              斉木健詞
ドンナ・アンナ         文屋小百合
ドン・オッターヴィオ     今尾 滋
ドンナ・エルヴィーラ     小林由佳
レポレッロ         大塚博章
マゼット              近藤 圭
ツェルリーナ         盛田麻央

合唱:            二期会合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:            トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ

指揮:                 沼尻竜典    
演出:               カロリーネ・グルーバー    
                 
装置:                 ロイ・スパーン    
衣裳:                 メヒトヒルト・ザイペル    
照明:                 山本英明    
演出助手:           家田 淳    
                 
舞台監督:           大仁田雅彦、飯田貴幸    
公演監督:           三林輝夫


5 件のコメント:

  1. 先日はコメントありがとうございました。私もびわ湖で同じ制作を見てきました。
    演出ダメでしたか。それはご自分の性と関係がある感じですかね。つまり、自分が男だったらこのシーンは大丈夫だろう、というような種類の。

    ジョバンニの黒田さんは私はセレナーデとツェルリーナとのデュエットが良くて、シャンパンアリアは比較的合ってないと思ったので、逆ですねー。いつも聴いてる音源との比較とか、ホールの音響もあるかもしれません。びわ湖はホールの大きさの割によく届く感じで、ここで映える人が他のホールで映えなかったりするので。

    ところでついでに別記事ですがまとめて。
    メトのジークフリート、アニメ声のテノールは私の大好物であります。いかにもテノール声のテノールは大抵、声質勝負の似たような芸風で、その芸風が苦手なのです。サンプル音源を聞いてみんながこれはひどいとか言い合ってても、ここ数代のメトのジークフリートの誰よりもマシとしか思えず、あまりにも違うので愕然としたもんです。DVDかTV放映を待って観てみようと思いました。オペラで親子が似てるかを気にするのは、逆に新鮮です(笑)。似てるどころか肌の色が違っても当然の世界ですから。リングなんか別公演だから全然マシで、親子設定で同じ舞台に立ってて人種が違っても当たり前です。ソフトバンクのお父さん状態?

    古事記見たかったので羨ましいです。またこういうの観たらレポ書いてください。
    おまけで書いた方が長くなってしまったな。ところでここのコメント欄、難しいですね。

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  2. 先日はコメントありがとうございました。私もびわ湖で同じ制作を見てきました。
    演出ダメでしたか。それはご自分の性と関係がある感じですかね。つまり、自分が男だったらこのシーンは大丈夫だろう、というような種類の。

    ジョバンニの黒田さんは私はセレナーデとツェルリーナとのデュエットが良くて、シャンパンアリアは比較的合ってないと思ったので、逆ですねー。いつも聴いてる音源との比較とか、ホールの音響もあるかもしれません。びわ湖はホールの大きさの割によく届く感じで、ここで映える人が他のホールで映えなかったりするので。

    ところでついでに別記事ですがまとめて。
    メトのジークフリート、アニメ声のテノールは私の大好物であります。いかにもテノール声のテノールは大抵、声質勝負の似たような芸風で、その芸風が苦手なのです。サンプル音源を聞いてみんながこれはひどいとか言い合ってても、ここ数代のメトのジークフリートの誰よりもマシとしか思えず、あまりにも違うので愕然としたもんです。DVDかTV放映を待って観てみようと思いました。オペラで親子が似てるかを気にするのは、逆に新鮮です(笑)。似てるどころか肌の色が違っても当然の世界ですから。リングなんか別公演だから全然マシで、親子設定で同じ舞台に立ってて人種が違っても当たり前です。ソフトバンクのお父さん状態?

    古事記見たかったので羨ましいです。またこういうの観たらレポ書いてください。
    おまけで書いた方が長くなってしまったな。ここコメント書きにくいですね。

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  3. starboardさん、ようこそおいでくださいました!コメントありがとうございます!というか、このブログがせっかくいただいたコメントをはじいてしまったようで、大変失礼しました。なにを基準にはじいているのかが分からないのですが、今後、こういうことがないように設定します。
    どうかこれで嫌にならず、ぜひまたいらっしゃってください。

    親子似てない問題(笑)、たしかに普通、オペラで親子なんて似てなくて当然ですよね。私も「親子似てないぞ」なんてつっこんでるやつ見たことないです。確かにドン・カルロとフィリッポが似てなくても誰も何にもいわないしなあ。(というか、ハムレットでいえばクローディアスのポジションなので、わたしとしてはあんま似てないほうがしっくりくるほどです)

    なんか我ながらバカっぽい話題だなぁ。 わたし、相当、程度の低い話をしてましたね。(こんなんにお付き合いいただいて、ほんと恐縮です)気を取り直して、一応説明しますね。

    似てねーなー、と思ったのは、単純に顔と髪の色だけではなくて、なんというか、演技のトーンがすごく違うんです。二人が並んでいるところが想像できない。それは世代とかの単純な話ではなく、今回のリングでは彼らの住んでいる空間の秩序が違っている気がします。この「ワルキューレ」と「ジークフリート」では物語の進む世界自体が別の世界な感じがする。
    例えていうなら、リアリズム演劇ともっとファンタジックなもの、とか実写とアニメとかの違いとでも言えばいいのか。カウフマンがけっこうガチで等身大の人間を演じていたのに対して、モリスはなんかキャラ系で、昔々あるところに、みたいな感じで。
    そういう意味では、この人たち似てない、というより、これは長い物語を4パートに分けて語っているのではなくて、物語の各パートをその部分を表すのにふさわしい表現の形式をその時々で変えながらつむいでいっているのか?というほうが、わたしの違和感に対してより正確かもしれません。なので最初はどうも違和感でしたが、こういうものだ!と割り切ったらすごく楽しくなりました。
    「ワルキューレ」はストレートプレイだったのに「ジークフリート」は歌舞伎かぁ、とかそんな感じ。そういう、表現様式の違いを感じたのです。(「ジークフリート」が歌舞伎、は言い過ぎだけど、そのくらい表現様式の違いを感じた、という意味です)

    で、ルパージュの今回の演出はストレッチするので、どっちの世界でも、それなりに馴染んでる感じです。
    この演出は、例の巨大なthe machineを使っていて、映像のプロジェクションの技術もすごいので、バレンシア・リング系の未来的な演出の系譜に連なる作品になるだろうと思われたのですが、物語が進むに従い、むしろこの装置自体は巨大な裸舞台で、投影される映像も、結構、リアルよりの魔法の世界、という、わりとなじみのあるものになっているな、という印象が強くなりました(もちろん映像を多用するので、厳密な定義での裸舞台とはいえませんが)。

    オペラで裸舞台は珍しいですけど、ないわけではなくて、ピーター・ブルックがやってますね。(ちょうど、上に貼ってある白い上着を着たマッティのジョバンニがブルックの演出です)(というか、シェイクスピアを裸舞台でやってセンセーションを巻き起こしたのもブルックだから、まあ、単純にブルックが裸舞台の旗手なだけか)

    そもそもルパージュは最新のテクノロジーを魔法のように操りますが、その結果、彼が舞台に乗せるのは、わたしたちがよく馴染んだものであることが多い気がします。最新の技術を使うけれど、作品の設定で必要でない限りはあまり未来的にはならない。今回は21世紀のテクノロジーを使って、ワーグナーが今生きていたら作っただろうものを目指した、とどこかで言っていましたが(この発言自体にはすごくつっこみが入ると思う。)言いたいことはわかるような気がする。

    その舞台のなにが裸舞台的かというと、余白が結構あるんだな、ということ。ビジュアル的にも結構スカスカしてますが、意味合いとしても、あの装置を背景にリアリズムのお芝居をすれば(映像がいいと)意外とリアルな背景にも見えるし、魔法の世界のようにも、見えやすいように思いました。

    うーむ。ここまで書いて思ったのですが、わたしはこの、ひとつのリングサイクルの中で作品のトーンが全然違うことを「それならそれで面白い」と思ったのですが「それはルパージュの意図だと思うか?」と聞かれたら、おそらくそうではないだろう、と答えます。
    ただし(今後どうなるかは分からないけど)この先、何年も繰り返し上演されるプロダクションにするつもりで作っているはずなので、今後の数限りないリバイバルの中で、ルパージュが演出しない歌手たちによってリングが歌われる時のために、この装置と演出は、おそらく見た目よりは幅広い表現を許容するように作られているし、そしてそれが今回は意図せず早めに発動してしまったけれど、その意味においてはこれも彼の意図だろうと思います。

    おまけに対する返事ばかり、すっかり長くなってしまいました。

    ジョバンニで一番よかった歌に関しては、わたしが見たのは宮本さんのときだったので、starboardさんが見た黒田さんとは、魅力的に響く歌がちょっと違っていたのかもしれません。普段聞いてる音源のせいもあるだろうし、 もちろんホールのせいかもしれない。東京では日生劇場だったのですが、わたしはあそこでオペラを見たのは初めてです。あまりオペラを積極的にやっているイメージはなくて、ミュージカルの印象の強い劇場です。音響は、恐れていたよりずっとよかったけど、ちょっと散漫だったようにも感じました。

    二期会の演出の何がだめだったか、はもうちょっと考えてみます。わたしも自分でも気になっているので、もう少しきちんと書いてみたいのです。

    古事記はすごくよかったです!なんともいえずワクワクしました。日本のオペラはなるべく見たいと思っているので(そういう意味では17(土)の横浜のミラマーレオペラ「こうもり」は見たかった。見れないのは痛すぎる)見たらまた書きますね。

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  4. しまった、モリスの声のことを書くのを忘れてた。
    モリスの声はとにかくとても特徴的でした。なんか、明るくてかわいいんですよ。声が。アニメ声と言っていいと思います。
    しかし顔がヒゲ面なので、この生き物はかわいい系だぞ、っていうことをわたしの頭(心か?)が受け入れるまで、しばらくかかりました。
    最初はかなり違和感ありましたが(ヒゲ面×かわいい声のジークフリート、ファニーな姿×正統派テノール声のミーメなので、目と耳が混乱してました)だんだん、こいつ多分ちょっとだけバカですごくかわいい子なんだ、みたいに思えてきて、好感度は尻上がりによくなっていきました。
    一般的なヘルデンテノール(っていうのも変ですが)っぽくはないので、評判は良くないかも、と思います。でもわたしはモリスは悪いとは全然思わなかったです。ただ、すごく違ってます。
    そういう意味では、starboardさん的にはアリな可能性が意外と高いので、DVDとかTVとかで遭遇することがあったらぜひ見てみてください。その感想はぜひお聞きしてみたいです。

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  5. コメントはマジ障壁高いです。だってgmail等のアカウント持っててログインした状態でないと出来ませんから。

    あんましこういう先入観無しに最初は感じたままを感じて欲しいので、ま、耳半分で聞いといてください。
    メトというのは世界の歌劇場の中でも特殊なポジションで、多忙なスター歌手を集めて短いリハーサル期間で公演するのが前提の劇場ですから、どんな中身でも入る枠を用意しておいて、その中では歌手の好きに任せるタイプの劇場です。小さい劇場だとリング4公演を通してカラーを合わせるとか、通して描きたいものは何かという作業を、演出チームだけではなく歌手込みでしたりするわけですが、劇場の特性ゆえに、それが元々希薄というか、そういうステップが公演を作り上げるプロセスの中に慣習として入っていないんではないかと思います。だからadrianaさんの挙げられたポイントは非常に的確というか、ある意味、必然的に出ている要素を感じ取られていると思います。
    と言いつつ、オペラの世界もグローバル化が著しくて、日本人が国内で観る機会のある外国のオペラというのはどうしてもそういう傾向にあるので(スターの名前がないと注目されないし)、特殊がスタンダードみたいに見えちゃう状況でもあるんですが。

    ジョバンニ、ダブルキャストだったんですね(もしかしたらトリプルかもしれないけど)。今見たら全然キャスト被ってませんでした。見落としてました。ダブルやってたのに関西に片方しか来ないのはケシカランなー。

    すいません、ヒゲ面×可愛い系の感想に、親子似てないと同様の新鮮な違和感を受け取ってしまいました。オペラでは余裕で充分可愛い方に入るでしょう。この辺、中高生は「ハタチなんてもうババァ」と余裕で言うし本気で思ってるけど、60歳くらいになると「40歳なんてメンコイものよのぉ」と本気で言うし実際そう思ってるのと一緒かと。オペラファンの視覚はみな還暦過ぎです(笑)。

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