2011年11月7日月曜日

METのDon Giovanniに何が起こったか

ここしばらく、私の最大の関心事であったMETのDon Giovanniに何が起こったか、時系列にまとめてみました。
 (むしろなぜ、リアルタイムで書いておかなかった、とあのときの自分に言ってやりたいが、当時は全然思いつかなかった)

2011年、METのドン・ジョヴァンニは、マイケル・グランデージによる新演出、ポーランドの若手実力派バリトン、マリウシュ・クヴィエーチェンをタイトルロールに、バルバラ・フリットリ、ルカ・ピサローニ、ラモン・ヴァルガスなど実力ある歌手を取り揃え、Live in HDの第二作目として期待された作品でした。
10月13日(木)にプレミア、29(土)がLive in HD。
公演は10/13,17,22,25,29と11/3,7,11の8回(その後、ドンナ・アンナ以外の主要キャスト総入れ替えで2月3月に8回公演)予定。

そこになにが起こったのか。

以下、時間は日本時間から逆算しているので、おおよその推定時間です。
()内が日本時間。

では、いってみよう。

2011.10.10(月) 午後3時
(2011.10.11(火) 午前4時)
10日(月)に行われていた、ドン・ジョヴァンニのドレスリハーサル中、タイトルロールのマリウシュ・クヴィエーチェンが腰の痛みにより、病院に運ばれた、という第一報が入る。Daniel Wakin (New York Timesのクラシック担当)のtweetより。

2011.10.10(月) 午後6時、
(2011.10.11(火) 午前7時)
METにより、13(木)のプレミアのタイトルロールは負傷したクヴィエーチェンに代わり、ペーター・マッティによって歌われることが発表される。MetOperaのtweetより

2011.10.11(火) 午後0時
(2011.10.12(水) 午前1時) 
クヴィエーチェンは腰の手術を受けた。月曜日のリハーサルは途中で退出し、木曜日のプレミアはキャンセルした。Daniel Wakin (New York Timesのクラシック担当)のtweetより。
 
2011.10.12(水) 午後2時
(2011.10.13(木) 午前3時)、
METにより、クヴィエーチェンは月末までジョヴァンニを歌わない。17(月)と22(土)は ペーター・マッティが歌い、25(火)と29(土)(←Live in HDの日)はTBA(未定)と発表される。MetOperaのtweetより

2011.10.14(金) 午後2時
(2011.10.15(土) 午前3時)
METにより、25(火)と29(土)のLive in HDでは クヴィエーチェンがドン・ジョヴァンニのタイトルロールを歌うことが発表される。MetOperaのtweetより

2011.10.15(土) 午後2時、
(2011.10.16(日) 午前3時)
2011-2012シーズン Live in HD 第一作 アンナ・ボレーナのインターミッションにドン・ジョヴァンニのメンバーが出演。
クヴィエーチェンは「まず、現在は元気です。数日前に手術を受けましたが、ご覧のように現在は歩けるし、少しなら走ることもできる。まだ本番まで1週間あります。METのジャパンツアーのとき、腰、椎間板に痛みがありましたが、その時は仕事が出来る程度の痛みでした。しかしこのリハーサルの際、騎士団長との戦いの終わりで、彼を殺そうとしたら、自分の腰にとどめを刺してしまった。それで病院へ連れていかれ、ほんの少しだけど手術しました。」とコメント。
「でもすごく健康そうね。手術から4日しか経っていないなんて信じられないくらい」とルネ・フレミングのコメント。


つまり、主役のクヴィエーチェンがプレミア3日前のドレスリハーサルで腰の負傷で降板し、代役のマッティがプレミアと3回の公演のタイトルロールを務めたが、周囲の心配を受けながらも驚異的なスピードで回復したクヴィエーチェンが手術後、たった2週間で舞台に舞い戻ってきたのです。
もろもろ心配で、手に入る情報はなるべくリアルタイムで追いかけていましたが、新しい情報が出てくるたび、私の予想をはるかに凌駕していて、起きていることが信じられませんでした。

まず、第一報で「背中の痛み(back injured)」というのが背中を怪我したんじゃないか、と思った。
しかし、1幕はじめの騎士団長との戦いで怪我なんかする?クヴィエーチェンはまだ39才になったばかりなのに?というのにびっくり。しかも病状は、かなりあとまで発表されなかった。

さらに、病院に運ばれた、という発表の直後(3時間後くらい)に、ペーター・マッティが代役として発表されたこと。元々のカバーはドゥエイン・クロフト(クロフト兄弟のバリトンの方)で、10日のドレスリハーサルでは、1幕早々に抜けてしまったクヴィエーチェンのかわりに立派にジョヴァンニを演じた、と報じられたけれど、MET側としては、新制作のジョヴァンニだけに、もっと話題性と人気のある人にやって欲しかったのでしょう。それにしても、たまたま「セヴィリヤの理髪師」のフィガロ役のために、世界最高のジョヴァンニの一人であるマッティがNYにいたなんて奇跡だ。(マッティは今シーズンのミラノ スカラのオープニングでジョヴァンニをやることが決まっています)。しかもたった2日しか準備期間がないのに、新制作のプレミアなのに、引き受けたマッティもすごい。

しかし何より一番信じられなかったのが、月曜に負傷し、火曜に手術を受け、金曜には月末の復帰を発表したクヴィエーチェンの執念と根性。と同時に、必死で復帰しても、アクションがぬるい、などと批判される可能性も大いにあるわけで、注目度は否が応でも高くなる。

そしてこんな大波乱のなか、新演出のドン・ジョバンニはいったいどうなったのだろうか。
プレミアのマッティの評価は?クヴィエーチェンは本当に舞台に立てるのか?
そして演出の評価、その他の歌手陣の評価、指揮者の評価はどうなったのか?
(次の記事に続く)

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